映画狂人にはなれない

映画狂人にはなれない

自意識の墓場

映画狂人なれない日記(8.28-9.3)

・8月28日:『ニューオリンズ

 来週は時間があったら『真夏の夜のジャズ』4Kを観るかどうか迷っているけれど、なんせ同じ屋根の下にEGO-WRAPPIN'だとかSPANK HAPPYだとかに詳しい人がいるので少々物怖じ中。彼女は高校時代から音楽を漁りまくっていたみたいだが、自分はその頃日本文学を漁っていた。『豊穣の海』の主人公の気持ち分かる!!とか思っていた。

 とりあえずの前哨戦として『ニューオリンズ』を観る。ストーリーとかはどうでもよくて動く、歌うビリー・ホリデイを映画の中で観れて満足できる。ビリー・ホリデイについては、サガンの短いエッセイが好き(このエッセイの入った本は蓮實と江藤淳の対談本『オールド・ファッション』でも言及されてている)。サガンスーパーカー好きのどうしようもないスピード狂で、薬物依存、アルコール依存に苦しむ後年だったけれど、後二つはビリー・ホリデイも同様で、薬物依存でニューヨーク公演を禁じられた彼女にサガンが会いに行くと、面会を午前四時に指定されたというエピソードがとても良いのだ。

 

 

・8月29日:『セリーヌとジュリーは舟でゆく』

 大学時代の友人で(良い意味で)ちょっと変わった人がいて、僕はジャック・リヴェットを面白いと思えたことがないんだけれど、その人は『セリーヌとジュリー』が良いと言っていたからいつかは見ようとずっと考えていた。とはいえ、なんせ3時間以上の大作だから怖気づいていたのだけれど、ついに見た。

 いや、その友人には悪いけれど、正直全然ハマれない。これって、色々な人が言っているけれど、オシャレに撮ったラノベとかアニメじゃん。僕は『涼宮ハルヒ』も当時見ていたし、『うる星やつらビューティフル・ドリーマー』だって何度も観たけれど、もうそういうのはお腹いっぱいで、今更ハマれず。

  もちろん、ラノベやアニメがヌーヴェル・ヴァーグを真似したわけであって、『セリーヌとジュリー』は一ミリも悪くないのだけれども、やっぱりループものは今更ハマれないなぁ…と。

 

 

・8月31日:『宮本から君へ』

 これも大学時代の友人の一人(卒論はゴダールの映画史という典型的なシネフィル)のお勧めで今更ながら見ることにする。

 池松壮亮ってほんとすごいなあと思うのが、アホみたいなことやっても全然こっちを冷めさせない。『君が君で君だ』でブラジャーしてるのとか、アホらし過ぎるのになんか良いんだよなあ。で、今回も炊飯器から 直接ご飯食べたりしてすごいアホなのにそんなにこっちを冷めさせない。

 で、感想なんだけれども、自分には感想を述べる資格がないと思うことを前置きしておく。自分は喧嘩だとか暴力だとかがもう本当に苦手だから、喧嘩映画はやっぱりハマれない。これ見たら、なんかすごい体調が悪くなりました。とはいえ、それ故に悪い映画とは言えなくて、むしろ最高の映画だと思う。観賞者の体調を悪化させられるくらいには、キツい拷問シーンが多くて、胸糞が本当に悪くなるのだけれども、最後の喧嘩シーンで、素晴らしいグロシーンをモザイクも無しに見せられた時には、最高の映画だ!と思ってしまう。拷問映画史に新たな歴史を刻んでいると思う(個人的には『ソドムの市』の数倍は股間がキュッとなったし、目を背けたくなった…)。

 でもやっぱり体調が良くないので、明日は身体に良い映画を観ることを決意。

 

 

・9月1日:『その女を殺せ』

 これは昔、『キッスで殺せ!』のDVDでも買おうかと思ってネットで調べている時に、予測変換で出てきて知った映画。直感でこれ面白いだろうな…と思っていたら大当たり。マジで面白い。『ヨーロッパ横断特急』を3倍面白くした感じ(ヒッチコックも十分面白いけどね)。やっぱりヌーヴェル・ヴァーグばっかり見ているようじゃダメ。ヌーヴェル・ヴァーグがオシャレ? くたばってくれ、ヌーヴェル・ヴァーグのオシャレ利用は。オシャレ利用するならハリウッドB級映画じゃないと!

(あまりによかったから、詳しい感想は後日)

   

 

 ・9月2日:『フォードvsフェラーリ

 僕が小学生くらいの頃にエンツォフェラーリが出た。レゴブロックがタイアップ商品を出していたのもあったりして、一応僕も人並みにはスーパーカーを知っている。とは言え、全くもってスーパーカー・オタクではないのだけれど、これはめっちゃ面白い。

   冒頭のレース映像のCGが陳腐で期待値は下がる一方だったのだけれど、なんだかんだで見ているうちにドハマり。『ベン・ハー』や『SW ep.1』を思わせるレースシーンも最高だし、マイルズが車を作る際に直面する、芸術か売上かという二つの対立項の狭間での葛藤はとても良かった。もちろん、マイルズは売上なんかよりもレーサーにとっての最高な車を作りたいんだけれども、周囲は売り上げを重視するわけだから、折り合いが悪くなっていく。レースだとかスーパーカーに興味があるかはどうでもよくて、自分が持つ美的感覚と周囲の価値観にズレを感じたことがある人には、ーーこれは何かを作る人、作ったことがある人なら必ず感じたことがあるズレだろうーーとても響く映画だと思う。そういう自分も「それってなんの役に立つの?」と今まで度々(主に年上の男から)投げかけられてきたから、マイルズの葛藤がすごく響いた。

 

 

・9月3日:『ぼくの小さな恋人たち』

 自分はTSUTAYAにない映画を家で見るのがすごい好きだ。自分は好きな映画がTSUTAYAにないとかなり盛り上がる最低な男なのだ。で、多分、ジャン・ユスターシュってTSUTAYAにあるわけないよね…とか思いながら『ぼくの小さな恋人たち』を観たら、渋谷のTSUTAYAにVHSがあると見終わった後に知る。

 まあ、TSUTAYAにあってもユスターシュは最高だからいいんだ。『ママと娼婦』はいかにもヌーヴェル・ヴァーグ的な引用に満ちた台詞、無限に話し続けるジャン=ピエール・レオ、静的な映像を越える饒舌さ、言葉の大洪水が映像を飲み込んで越えてゆく(ル・クレジオ?)って感じで、まあ良いとはいえ、イカニモ感がそこまで好きになれないんだけれど、『ぼくの小さな恋人たち』は最高だ。

 『批評と臨床』に《芸術は子供たちが語っていることを語る》という有名なフレーズがあるけれど、実際は子供が語るように語ることは難しい。子どもの視点というのは大人になるにつれて失うのだから、基本的には不可能だ。それでもそれを成し遂げているなと思わせるものがときおりあって、『大人はわかってくれない』、『ミツバチのささやき』、『エル・スール』はもちろんのこと、『あみこ』(山中瑶子監督もそうだと思う。

 で、この映画もやっぱり子供らしく語るという点で成功していて、それは主人公のダニエルが(僕らの誰もがかつてそう思ったように)大人たちを理不尽なことばかり言う存在だと思っていることを十分に表現しているからではなくて、大人が理不尽なことを言ったり、意地悪なことを言った後にするあの年老いた者特有の諦念が顔に現れる瞬間をダニエルと共に私たちが盗み見てしまうのをカメラが再現しているからなのだ。

 食卓での母親と母親の恋人との会話の中で、母親がダニエルに進学はあきらめるように告げた後、「やりたいことはないの?」とダニエルに尋ねるシーン。「何もない。何も興味がない」とダニエルが答えた後に映る、母親の恋人の顔つきがなんとも言えなくて良い。

 

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 あるいは、ダニエルが母親の恋人に紹介してもらった職場で夏休みを取ろうとしていることを母親たちが非難するシーン。《母:お前に夏休みがあるの? 勝手に決めていいの?/ダニエル:考えただけだよ。/母:お前はまだ子供なのよ。大人の言う通りにしなさい。》という会話の際に映る大人二人の表情が良い。

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 ちなみに冒頭で流れる「優しいフランス(Douce France)」の歌手のシャルル・トレネと言えばすごい懐かしくて良い思い出がある。

 僕は大学生の初めの頃よく新宿ゴールデン街をさまよっていた。ゴールデン街というのは若い人がいないわけではないんだけれど、一人でさまよっている若者は珍しいのか、しばしば、年上のおじさんたちにかわいがってもらっていた。その中で今でもよく覚えているのはフレデリック・フォーサイススタンリー・キューブリックを愛するムサビ出身でテレビの仕事をしているイケてるおじさんと、シャンソン好きの中性的でやっぱりカッコいいお兄さんだ。で、このお兄さんが僕がフランスの映画や小説に少々詳しいのを喜んで、この曲聞いてみてよ!と言って教えてくれたのがシャルル・トレネの「我が若かりし頃(Mes jeunes années)」だったのだ。僕はやっぱり(冒頭に書いた通り)当時、音楽には精通していなかったから、シャルル・トレネを知らなくて、その時お兄さんがとっさにメモ紙に書いて渡してくれたのだけれども、その紙は今も栞として僕の本棚のどこかの本の中に眠っている。

 シャルル・トレネが案外セクハラ親父で、アンヌ・ヴィアゼムスキーに小説内でMe too運動のごとく、彼女が受けた被害をバラされているのも知っているけれど、お兄さんとの思い出補正故に、シャルル・トレネはなんだかんだで僕の中で特別なシャンソン歌手の一人なのだ。

 

  僕は人間が好きじゃないくせに、映画も音楽も小説も人から伝えられて手に取ってこそ意味があると思っている。ブック・ガイドだとか、ファッション誌の見ておくべき映画特集だとか、映画史を辿って教える大学の授業だとかはアホでバカでクソの極みだと思っている。そんなの大嫌いだ。文化は人から人へ直接、思い出を伴って繋がるからこそ最高なんだ。

 そういうわけで、やっぱり、恋人が影響を受けたであろうEGO-WRAPPIN'と僕が好きな「映画」というメディアを繋ぐ『真夏の夜のジャズ』を来週こそは観に行きたい。

 

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